きみの中で燃える血の赤さで 04
――九郎がそのつもりだと、分かった上で誘いに乗ったのはいいのだが、口を固く結びながらも頬だけはうっすら赤らめている部屋の主に、弁慶は内心微笑ましいやら気恥ずかしいやら、それでもごく他愛のないふうに振る舞った。
五の宮が戻ってくるかもしれないということで少し待ってみたものの、夕陽が迫るころになっても門は静まり返っていたため、弁慶と九郎は宇治を後にしたのだった。普段なら宮が弁慶を置いてどこかをふらつくこともないのだが、今日は宮があえて二人きりにしてくれたのだ。
「お詫びは後日お伺いしたときに」と弁慶が女房に言伝えた際、九郎の眉はわずかにひそめられていた。
そしてまた、酒の雫がなめらかに喉をつたうあいだも無意識に手を握りしめていることに気づき、九郎は一人で百面相をした。
弁慶の肌はいっそう白く見える。それが穢れをはねのける潔癖な白さなのか、染めかわるのを待っているような白さなのか、九郎には判断ができなかった。だがそのせいで尚のこと、目の前の神秘に分け入りたいと思った。
それは妄想でも何でもなく、これから現実のものとなるのだが。
「こういうときお前は、いつもどんなふうに誘われるんだ」
口に出すのも悔しいのに、答えなど聞きたくないのに、悶々と考えているのはどうにも得意ではなくて思わず口にしてしまう。
「どうって・・・・・・」
瞬きをした大きな目は、特に困ったという感じではなさそうだったが、掠れた声がひどく色っぽい。九郎の胸が一気に跳ねた。
「僕は、九郎がしたいようにしてくれるのが、嬉しいですけど」
「・・・っ」
はぐらかされたのかもしれないと感じつつ、九郎は弁慶の肩を強く掴んでいた。
その衝撃で手にしていた盃から中身がこぼれ、弁慶はあわててそれを置く。手の甲が少し濡れてしまったが、目を逸らすのも許さない勢いで顔を自分のほうに向けさせ熱く見つめてくる九郎に、弁慶の鼓動が小さく高鳴る。
「この前、お前が俺の部屋に来たとき、なぜ抱かなかったのだろうな」
言われて、弁慶もあのときのことを振り返った。その日は九郎の気持ちを知り、そのまま口づけを交わしたのだったか。酔ったような心地よさに包まれはしたけれど、僕も九郎も淫らな目なんてしていなかったはずだ。九郎は違ったのだろうか。
「・・・ずいぶん昔の話だが、お前に何度も言われた。自分のことを全部話すつもりはないと。あの頃は子供だったからな、俺はそのたびに拗ねた。俺の過去も考えていることもお前に筒抜けなのに、それでは不公平だと」
「ふふ、ごめんなさい」
「もう子供じゃない。今となってはお前の気持ちもわかるつもりだ。だからお前のやることにどうこう言うつもりはないさ。戻ってくるだけまだいいだろう、と、周りにも言われたからな」
肩を抱き寄せる力が強くなり、弁慶は頭を九郎の胸に凭せかける形になった。
「だが・・・」
弁慶の体から力が抜けるのを感じ取り、九郎は彼をその場に組み敷くと、そっと覆いかぶさった。床と弁慶の背のあいだに手を差し入れ、褥の上に横たえてやりながら邪魔な枕を適当に脇へ退ける。
「それでも、俺のものにはなってもらう」
涼しい目もとをしたととのった顔に、この上なく凛とした声を乗せて、九郎はきっぱりと告げた。弁慶は濡れた目で見つめ返しながら、指だけを九郎の夜着に這わせ帯を探りあてた。
「仰せのままに」
まるで思いがけず見初められた側室の返事のような言葉を返したが、いつものように眉をひそめられることはなく、堅苦しいからやめろとも言われなかった。
しゅるりと衣擦れがささめいたのを合図に、九郎も負けじと弁慶の小袖を剥いだ。
そう急くつもりはなかったのだが、弁慶のせいでその理性も飛んだのだった。乱れた裾からのぞく彼の足首が蛇のようにくねり、白い腿が九郎の脚に絡みついてくるのだ。
九郎を素直に受け入れた弁慶はいつになく可憐な風情なのに、息をするような自然さでねだられたような気がして、九郎は熱が集まるのをはっきり認めた。
(こいつに、こんなふうに求められたら、誰だって――)
弁慶のいじらしさと、それから誰かもわからない相手への嫉妬に、九郎はぴったり合わせた肌のすきまに手を遣り性急に肌をまさぐった。
「あ、くろう・・・」
綺麗な顔が淫らにゆがみ、色づいたくちびるを濡れた喘ぎが割りはじめた。九郎は反応を見るようにその顔をじっと見つめながら、今度は丁寧に扱う。
「あっ、」
するとますます切なく声をとろけさせて悲鳴を上げるので、九郎は耐えられなくなり、目の前の情交にどうしようもなく夢中になった。
R18になっちゃうので、最後までは・・・描写しません・・・が
おまけで後々上げるかも